<コラム>COMPUTEXの役割、COMPUTEXの変化(振り返りのキーワード/ちょっとだけおさらい・・・)

240603-06 (2)■■COMPUTEXの役割、COMPUTEXの変化

COMPUTEXはパソコンのグローバル市場の急成長とともに重要な役割を果たしてきた。ハイスペックパソコンや周辺機器をリーズナブルなコストでグローバル市場に供給すること、それが台湾大手ベンダーのビジネスモデルである。もちろん、現在もその役割は変わっていない。1990年代後半以降、台湾IT産業は急成長し、「世界のパソコン工場」と言われるようになった。2001年からはノートブックパソコンの生産拠点を中国に移し、「世界のパソコン工場」としての地位は揺るぎないものだった。COMPUTEXは最新型パソコンの発表と場として、また世界中から集まるバイヤーの調達の場として年々規模を拡大して開催されるようになった。

しかし、2016年を境にCOMPUTEXが大きく変化する。IoT(モノのインターネット)である。高性能のパソコンを大量生産により、リーズナブル価格帯で世界中に供給すること、こうしたビジネスモデルが変化し始めたのが2016年である。

情報端末としてのパソコンニーズの変化、追従する新興ベンダーとの競争、市場ニーズの多様化など、厳しいビジネス環境の変化により台湾大手ベンダーのビジネスモデルが変化し始めた。情報端末がネットに繋がるIoT(モノのインターネット)の変化の動きがこうした動きに拍車をかけた。さまざまな分野で必要とされる端末やソリューションが多様化し、台湾大手ベンダーはソリューション分野へ大きく舵を切って製品開発を行うようになってきている。

繰り返しになるが、リーズナブルコスト+大量生産のビジネスモデルは過去のものになりつつあり、IoT+AIが時代のキーワードとなり、近年はソリューションが主役である。筆者はこれを台湾大手ベンダーの「多角的全方位戦略」と名付けた。ヘルスケア、医療、教育、流通、農業、そしてモビリティといった分野でこれまでの経験を活かしながら新しい分野での製品開発が進んでいる。どんな分野がトレンドになるか、予測が難しくなった。ユーザーのニーズをいち早く捉えて、スピーディな製品開発が求められるようになった。キーワードは「Smart○○○」、中国語では「智慧○○○」と表現する。AIoTの時代を象徴する言葉だ。

■台湾大手ベンダーの「全方位多角的戦略」、Smart○○○とは・・・

Smart home、Smart office、Smart factoryをはじめ、Smart education、Smart vehicle、Smart medical、Smart heathなどなど。素材の分野ではSmart cloth、物流はSmart retail、農業はSmart agri、サービスロボットはSmart robotics、他にもSmart hotel、Smart energy、Smart security、Smart eco-system、良きにつけ悪しきにつけSmart○○○のオンパレードだ。

しかし、見通しがつかない状況であるからこそ台湾ベンダーはむしろ「強み」を発揮する。Try & Errorで次々に新しいことに挑戦し、フレキシブルに戦略を変えていく。スピーディな意思決定、フレキシブルな対応、チャレンジスピリッツ(通称:SFC)は台湾ベンダーの「強み」である。

コロナ禍を経てこうした動きにますます拍車がかかった。実際に昨年はBENQ(明碁)のスマートメーター/自動車やオートバイ向け、 (微星)の自動車向け給電ステーション、GIGA-BYTE(技嘉)のデータセンター向けソリューション、ACER(宏碁)の家庭用のスマートヘルスケア関連製品、BENQ(明碁)の回転寿司システムなどなど。

また、これまでの出展製品に眼を向けてみるとGUGA-BYTE(技嘉)のSmart agri/植物工場、MSI(微星)の図書館ASUS(華碩)のロボットを使ったホテルソリューション、他にも大手ベンダー各社はリテール向けの決済システム、自動車向けの家庭用給電ステーション、中小企業向けのコンパクトなロボットアームソリューションなどを出展。各社ともパソコンやサーバーシステムの展示に匹敵する面積を割いて、さまざまなソリューションの展示を行っている。こうした「多角的全方位戦略」は近年のCOMPUTEX を象徴するキーワードだ。

■「多角的全方位戦略」とスタートアップベンチャーとの関係

台湾大手ベンダーの「多角的全方位戦略」という言葉はポジティブな響きがある。前向きである。逆に、あれもこれも開発に着手して、結果的にビジネスの成功に繋がらないのは「戦略の迷走」である。

積極的な「多角的全方位戦略」で攻めの姿勢を貫くことができるのか、人材や資金など限られた資源を有効に活用しきれず、単なる「戦略の迷走」で終わるのか、それを左右するのはスタートアップとの連携がカギと言える。台湾大手ベンダーにとってスタートアップベンチャー技術やソリューションをうまく取り込んで新しい分野の製品開発に挑戦する。「多角的全方位戦略」のポイントの一つはこうしたスタートアップベンチャーとの連携である。台湾ではこうした動きが2016年から顕著になり、コロナ禍を経てますます拍車がかかった。

もちろん、模索を繰り返しながら、大手ベンダーと言えども製品化に繋がらないケースも少なくない。方向性を見誤ると結果が伴わず、費やした資金も人材も無駄になる。マーケティングが不十分、ターゲットの絞り込みが甘いといったマイナスの結果となる。戦略の迷走、戦術の誤算もあるだろう。そのためにもスタートアップの見極めが重要なカギ。国内外のスタートアップとの連携が重要な課題だ。

海外のスタートアップのこの点に眼をつけている。台湾をベースチャンプにして台湾大手ベンダーとの協業でグローバル市場を狙う動きだ。InnoVEXに出展している各国のアクセラレータの動きにも注目だ。

■台湾大手ベンダーの‘強み’は3つ・・・

これまで高品質のパソコンをリーズナブルな価格で大量に生産し、世界中に供給してきた実績。これが台湾大手ベンダーの‘強み’である。製品開発力、量産技術、グローバル市場におけるネットワーク、台湾大手ベンダーの‘強み’はこの3つの点に集約できる。Try & Errorを繰り返しながらも、ビジネスのスピード、変化に柔軟な対応、そしてチャレンジスピリッツが台湾大手ベンダーの‘強み’である。

これはある意味、日本企業(日本の中小企業)にとっては大きなビジネスチャンスである。日本側の‘強み’と台湾ベンダーの‘強み’を組み合わせて協業できるポイントを見つけ出していく。台湾ベンダーの製品開発力、量産技術、グローバル市場におけるネットワークを活用するチャンスと言えるだろう。

残念ながら日本のスタートアップはこうした動きに出遅れ感が否めない。台湾ビジネスは台湾市場を狙うことではない。台湾ベンダーのリソースをフルに活用して、グローバル市場を狙うことである。この点は声を大にして言いたい。もっと台湾大手ベンダーの「多角的全方位戦略」に注目し、台湾経由グローバル市場に挑戦する日本のスタートアップが増えることに期待したい。

■COMPUTEX & InnoVEX2025開催概要

会期は5月20日(火)から5月24日(金)まで4日間。会場は台北の「台北世界貿易センター南港ホール」(TaiNEX)の第1ホール及び第2ホール。出展企業数は1,800社、4,800小間。来場者は10万人を予測。主催はTaipei Computer Association/TCA(台北市電脳商業同業公会)とTAIWAN TRADE CENTER/TAITRA(中華民国対外貿易発展協会) 第1ホールの4階にはACER(宏碁)、ASUS(華碩)、MSI(微星)など台湾を代表する大手ベンダーが出展。また今年で10回目を迎えるInnoVEXには国内外から400社を超えるスタートアップが出展。注目を集めそうだ。日本語の「事前登録」のサイトはこちらから https://www.computexonline.com.tw/?userlang=jp

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